- Culture

和田哲哉
東京の「文房具」カルチャーの発信源へ。- 012
2010.03.29
実用品、雑貨系から一点モノまで、 「文房具」をめぐる旅に出かけよう。
Story
もはや定番となったロディアやモレスキンなどの輸入文具、そしてほぼ日手帳、超整理手帳に代表される手帳ブーム……。iPhoneをはじめとするデジタルガジェットが全盛の一方、いま再びアナログな文房具に注目が集まっている。そこで、『文房具を楽しく使う』の著者としても知られる和田哲哉さんに、そうしたブームを陰で支え、新たな文房具カルチャーを生み出し続ける、東京の魅力的なお店を案内してもらいました。Text by Kentaro Inoue / Photo by Shinichi Yokoyama , Tokyo Faves / Photo cooperation by six
「昔は、文房具は“10年周期”といわれていて、たとえば急に手帳ブームがきてはしぼむという繰り返し。それが今は、本や雑誌に加えて個人がウェブサイトで情報発信をし始めたことで、流行の谷間が見えなくなり、話題が絶え間なく続くようになった。文房具って、値段が安くて買いやすいし、誰もが使うあまりにも身近な存在ですよね。それがこのブームが持続させている理由だと思います」
子どもの頃は、いつもハサミとわら半紙、ボールペンの入ったカバンを持ち歩く、文具少年だったという和田哲哉さん。和田さんが本格的に文房具の世界に足を踏み入れたきっかけは、ハードウェア設計として勤めた会社で目にしたインターネットだった。
「まだインターネット自体が珍しかった時代に、もう海外には、鉛筆とかシャープペン万年筆とかを扱う趣味サイトや、通販をしているサイトもあったんです。『こんなことができるんだ!』と感激して、1997年に『ステーショナリープログラム』というウェブサイトを開設しました」
サイトを始めて2年くらいたったある日のこと、読者からこんなメールが届いた。「文房具を紹介してくれるのはうれしいんですが、地元では買えないんです」と。
「それを見て、自分がモノ自慢をしている嫌なヤツだったんだと気づいたんです。じゃあ紹介したものは買えるようにしようと思って、99年に『信頼文具舗』というオンラインショップを立ち上げました。でも当時は、実在する店舗のない人には商品を卸さないと言われてしまって……。休日にわざわざ車で問屋さんに仕入れにいったり、文房具屋さんで普通に買ってお客さんに送る、なんてこともしていましたね」
文房具は“スモールコミュニケーション”
2002~2003年になると、和田さんのサイトでも紹介していた、ロディア、モレスキンといった海外文房具が、単行本や雑誌などで取り上げられるように。そして、何か面白い商材はないかと探していたバイヤーの目にとまり、徐々に広まっていった。「デザイン文房具」という言葉がさかんに言われ始めたのもこの頃だ。
「みんな、こういう服が着たいとか、こんな車に乗りたいとか、こんな家具を揃えたい、こんな建築家に家を建ててもらいたいって思うじゃないですか。文房具もそれと同じ。ライフスタイルをトータルでデザインしたいって思ったとき、その人の生活圏で一番ミクロなアイテムが文房具なんです。だから、文房具だけが一人歩きしているわけじゃなくて、そういう流れの中に文房具も入ってきたんでしょうね」
現在では、文具の楽しい使いこなしを各所で講演している和田さんが、最近よく言う言葉があるという。それは、「文房具はスモールコミュニケーション」だということ。
「これは、本郷にある文具店『スコス』さんが、最初に言ってくれたんですが、文房具って知っている人だけが楽しめる世界なんです。自分の好きなジャンルやモノでフィルターをかけていくと、本当にに好きな人だけが集まる。カメラや車にも、キャノンファン、ライカファン、トヨタファン……など、もちろんいるんですが、文房具に比べると圧倒的に商品数が少ないので、あまりフィルターがかからないんですよ」
スコス(SCOS)というのは「a small circle of stationery」(文房具の小さなサークル)の略。まさに、今ブームとなっている輸入文房具の“源流”ともいえるお店だ。
「文房具のファンは、かなり細分化されています。筆記具など実用的な文具と雑貨的な文具、アンティークの万年筆など高級なものからチープなもの、そして、その文具を使って成功したい人、単純に文具を趣味として楽しみたい人、そういう軸がとにかくたくさんある。長く文房具の世界に関わっていると、自分の好きな世界、場所が見えてきます。だから、本当に話の合う人もだんだん絞られてくるんです(笑)」
新たなカルチャーを生み出し続ける文具店はここ
小さなサークルをつくることでほっとする、そんな文房具の世界。今回、和田さんに紹介してもらったのも、そうした「スモールコミュニケーション」が味わえるお店ばかり。
「文具メーカー・デルフォニックスのオーナーさんが最初に開いたお店、自由が丘の『six』は、オリジナルから輸入ものまで幅広い品揃え。ビギナーからマニアまで、どんな人でも楽しめます。雑貨系では、先ほども話に出た、本郷の『スコス』。とにかく色がきれいで、かわいくて、使って楽しい、今ブームになっている輸入文具の先がけとなったショップです」
どちらもけっしてジェネラルではないけれど、わかる人にはわかる、好きな人にとってはたまらないお店。街の文房具店とも違うし、ただデザインのよい文具を並べているだけでもない。
「デザイン会社のAXISが経営する、六本木の『リビング・モティーフ』は、なんでも揃えられるパワーがあるはずなのに、ショップらしさを語れない商品は置かない。そぎ落とすことで個性を出す、そのこだわりは尊敬に値します。広い意味での文具店ということで紹介したいのは、世界の最先端のガジェットを集めた、原宿の『アシストオン』。ショップマスターの大杉信雄さんとアドバイザーの大谷和利さんは、とにかくモノをよくご存じ。モノをわかっている方のパワーがありますね」
そして、文房具から、さらにもう一歩テーマを絞り込んだ専門店も見逃せない。
「銀座の『五十音』は、もともと筆記具好きの店主・宇井野さんの趣味が高じて始められたボールペンと鉛筆のお店です。ここは海外の文具店のような雰囲気で、入るのに少し勇気がいるんですが(笑)、コミュニケーションの段階を踏んでいく楽しみがあります。また、同じく銀座の『オーソドキシー』は、ペンケースから手帳カバー、カバンまで、一点ものの革製品のオーダー専門店。お客さんのリクエストに沿って、物理的に可能なことと不可能なことを説明しながら図面を描いて、非常に丁寧につくってくれるんです」
こうした数々のお店が、文房具ブームの牽引役となっているのは間違いない。そしてどこも、周囲をリサーチすることより、店主やオーナーの「こうしたいという思い」を大切に店づくりをしているところに意味がある。
「たとえばジーンズひとつでも、この親父に採寸してもらって、このお店で買いたいっていう人はたくさんいるじゃないですか。文房具もそういう時代になってきたんだと思うんです。成熟した証拠なんでしょうね。そして東京は、新たなカルチャーを生み出す“源流”となったお店が集まる、文具好きにはたまらない街なんですよ」
各地から来た文房具好きの知人を、案内して回ることも多いという和田さん。あなたも、そんな東京の文房具店をめぐる旅に出てみてはいかが? きっと、あなたの好みを理解し、世界を広げてくれる、ステキな一軒が見つかるはず。
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